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美容師の技術論

Suzeがヘアマニキュアを続けられる理由【更新版】

この記事は、以前掲載した「Suzeがヘアマニキュアを続けられる理由」を、現在の美容業界の状況や当店での経験を踏まえて加筆・更新したものです。

ヘアマニキュアを扱う美容室が、以前より少なくなったと感じています。

かつては常連客だけに提供する裏メニューとして残している美容室もありましたが、最近ではそれすらなく、完全に取り扱いをやめているケースも見られます。

なぜなのでしょうか。

【需要の減少と技術継承の難しさ】

ヘアマニキュアは、一般的なヘアカラーに比べて需要が限られています。

しかも、頭皮につけずに根元近くまで均一に染めるには、それなりの経験と技術が必要です。

近年は働き方改革によって、美容師の教育に使える時間も限られています。

覚えるべき技術が多いなか、需要の少ない技術が教育の優先順位から外れていくのは、ある意味合理的な判断でしょう。

しかし、教えなくなれば技術を持つ美容師が減り、ますます提供が難しくなります。

【慣れている美容室には、それほど負担ではない】

ヘアマニキュアは、一般的な施術手順をそのまま守ろうとすると、手間のかかる技術です。

例えばプレシャンプー。

髪の汚れや付着物が染まりに影響することがありますが、長年の経験から、どの程度なら問題なく染まるのか判断できます。

そのため、Suzeではプレシャンプーをほとんど行っていません。必要と判断した場合に限って実施しています。

塗布技術についても同様です。

経験を重ねることで無駄な動作が減り、効率よく施術できるようになります。

不慣れな美容室には負担の大きな技術でも、私たちにはそれほど大きな負担ではありません。

【お客様の理解も必要】

ヘアマニキュアには、頭皮につけられないため根元にわずかな染め残しが生じるなど、技術的な限界があります。

それを説明しても、完璧な仕上がりを求められたり、細かな部分についてクレームや無料のやり直しを要求されたりすれば、美容室側の負担は大きくなります。

Suzeでは、できることとできないことをあらかじめ説明し、その特性を理解していただいたうえで施術しています。

誰にでも適した染毛方法ではありませんが、必要としている方には非常に有用な選択肢です。

【関東一円からお客様が来店】

現在、Suzeにはヘアマニキュアを求めて関東各地からお客様が来店されています。

それだけ取り扱う美容室が見つかりにくくなっているのかもしれません。

需要が少ないからといって、その技術を必要としている人がいなくなるわけではありません。

Suzeがヘアマニキュアを続けられるのは、長年培った技術と経験、合理的な施術方法、そしてその特性を理解してくださるお客様がいるからです。

これからも、必要とされる限り続けていきたいと考えています。

良かった髪型より、失敗した髪型を覚えている理由

人間には、良い出来事より悪い出来事に強く反応し、記憶や判断に影響を受けやすい傾向があります。

心理学では、これを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。

何人もの人に褒められても、たった一人から言われた嫌な言葉がいつまでも気になることがあります。

悪い経験を意識することは、失敗を繰り返さないためにも役立ちます。

美容室でも、この傾向を感じます。

【良かった髪型は、案外覚えていない】

ヘアスタイルの相談では、過去に気に入らなかった髪型について具体的に説明されることがあります。

「段を入れられて広がった」
「すかれすぎて毛先が薄くなった」
「短く切られてまとまらなくなった」

一方、気に入っていた髪型については、「なんとなくよかった」「扱いやすかった」と漠然とした説明になることも少なくありません。

成功したヘアスタイルは、日常に馴染み、意識されなくなるのかもしれません。

【失敗の記憶が、次の注文を決める】

お客様が過去の失敗を繰り返さないことを優先して、次の髪型を決める場合があります。

段を入れて広がったから、段を入れたくない。
すかれすぎたから、毛量を減らしたくない。

こうした希望には理由があります。

ただし、お客様が失敗の原因だと考えていることが、実際の原因と一致しているとは限りません。

段を入れたことではなく、入れ方が問題だったのかもしれません。

毛量調整そのものではなく、減らす位置や量が適切でなかったのかもしれません。

一度の失敗から、技術そのものを避けるようになることもあります。

【美容師は注文の背景も理解する必要がある】

お客様の希望を聞くことは大切ですが、そのまま実行すればよいとは限りません。

なぜ段を入れたくないのか。
なぜ毛量を減らしたくないのか。
そこにどんな経験があったのか。

背景を理解して初めて、適切な提案ができることもあります。

嫌だったという経験を否定する必要はありません。ただ、原因については美容師として別の見方ができる場合があります。

過去の失敗を繰り返さないことは大切です。

しかし、原因を誤解したままでは、本来似合う髪型や必要な技術まで避けてしまうかもしれません。

美容師のカウンセリングには、希望だけでなく、その背景にある先入観まで見極める力が必要なのだと思います。

上手い毛量調整は、存在を消す

毛量調整という技術は、少し不思議です。

上手くいった時ほど、「毛量調整をしてもらった」という印象が残りません。

乾かしやすい。
広がりにくい。
毛先が自然に動く。
重さはないのに、薄く見えない。

そんな状態になっていても、お客様からすると「今回の髪型は扱いやすい」で終わることが多いと思います。

つまり、上手い毛量調整は自分の存在を消します。
逆に、下手な毛量調整は強烈に存在を主張します。

スカスカになった。
毛先が暴れる。
短い毛が立つ。
まとまらない。
伸びるまで直しにくい。

こうなると、原因として「梳かれすぎた」という記憶が強く残ります。

そのため最近は、「梳かない方がいい」「セニングは危険」という話もよく見かけます。

もちろん、やり過ぎれば問題になります。

でも本来、毛量調整は単純に量を減らす技術ではありません。

残すところ、減らすところ、触らないところを見極めながら、形を壊さず扱いやすくする仕事です。

特に中高年の髪では、全体の毛量は減っていても、部分的には膨らむ、癖が強くなる、毛先だけ重く感じる、といった複雑な状態が起こります。

だからこそ、全部を残すことが正解でも、全部を減らすことが正解でもありません。

必要なのは「梳くか、梳かないか」ではなく、どこを、どれだけ、なぜ触るのかを判断することです。

良い技術ほど、仕上がった後には技術の跡が見えない。

毛量調整は、その代表なのかもしれません。

中高年の髪は、マニュアルでは解決できない

今の美容師は、昔に比べて本当に技術を学びやすくなりました。

カットでもカラーでも縮毛矯正でも、YouTube等を見れば上手な人の技術を何度でも確認できます。講習やマニュアルも充実し、昔なら何年もかけて覚えたことを、短い時間で知ることができます。

これは間違いなく良いことです。

ただ、学びやすくなったことで、逆に身につきにくくなった能力もあるように思います。

それは、目の前のお客様を見て、自分で答えを出す力です。

昔は今ほど親切な教材がありませんでした。先輩の仕事を見て真似する。聞いても「見れば分かるだろ」で終わる。教わった通りにやっても、実際のお客様ではうまくいかない。

だから結局、自分で考えるしかない。

髪質、毛流れ、骨格、ダメージ、普段の手入れ、本人の希望。いろいろな条件を見ながら、その場で判断する。

その過程を突破できず、スタイリストになる前に辞める美容師も少なくありませんでした。今は教育が整い、そういう話はずいぶん減りました。これは良い変化です。

ただ昔は、良くも悪くも「自分で考えて突破できる人」が残りやすい環境でもありました。

最近は「○○特化美容師」という形も増えました。一つの技術を深く習得し、短期間で強みを作るには合理的です。

ただ、中高年の髪は少し事情が違います。

髪は細くなり、部分的に量が減る一方で、癖や膨らみが強くなることもある。白髪、ダメージ、ボリューム、扱いやすさまで同時に考える必要があります。

同じ「まとまらない」という悩みでも、切るのか、残すのか、癖を伸ばすのか、活かすのかで答えは変わります。

そこで必要になるのは、得意技を当てはめる力だけではありません。

カット、カラー、パーマ、縮毛矯正、毛量調整など、幅広い引き出しがあるからこそ、「今回はこれをやる」「これはやらない」「別の技術で補う」という発想が生まれます。

一つの技術を深く知ることと、複数の技術を横断して考えることは別の能力です。

中高年特化美容師に必要なのは、何か一つへの特化ではなく、幅広い技術と経験を使って、その人ごとの答えを作る力です。

つまり、中高年特化とは、技術の特化というより「総合力と判断力への特化」なのだと思っています。

同じ髪型なのに、美容師で作り方が違う理由

同じように見えるヘアスタイルでも、美容師によってカットや施術の考え方がまったく違うことがあります。

ある美容師が勧めることを、別の美容師は「避けた方がいい」と言うことさえあります。

どちらかが間違っているとは限りません。違うのは、完成した髪型だけでなく、そこへ至る「仕上げ方」まで含めて設計しているからです。

例えば、毎日アイロンでボリュームを抑えて仕上げるのか、ドライヤーで根元を立ち上げて仕上げるのか。同じような髪型に見えても、カットの作り方は変わります。

若い世代ではアイロンを日常的に使う方も多い一方、40代、50代、60代には、ブラシとドライヤーや、いわゆる「くるくるドライヤー」に代表されるカールドライヤーを長年使い慣れている方も少なくありません。

髪が細くなり、根元のボリュームが出にくくなってくる年代では、アイロンで整えることを前提にすると、欲しい場所の立ち上がりまで失ってしまうことがあります。

艶の考え方も同じです。

ヘアオイルやスタイリング剤でしっとりした艶を作るのか、それとも髪の表面を整え、光を白く反射する髪本来の艶を出すのか。

Suzeでは中高年の髪には、できるだけ後者を目指します。ヘアオイルを使わない、スタイリング剤に頼らない仕上がりを希望する方にも向いた考え方です。

もちろんアイロンやオイルを否定しているわけではありません。ただし、それらを使わないと成立しない髪型を最初から目指すのではなく、まずはドライヤーとスケルトンブラシ程度で形になるスタイルを第一段階とします。

それだけでは髪質的に難しければ、酸熱トリートメントでうねりや広がりを整える、パーマで立ち上がりや動きを補う、と段階的に方法を探します。

「アイロンを使わない髪型にしたい」「ヘアオイルやスタイリング剤に頼りたくない」。

そんな希望も、ヘアスタイルを作るうえでは大切な条件のひとつです。

美容室を出た瞬間だけではなく、翌日から自分でどう仕上げるのか。
そこまで考えると、同じように見える髪型でも、美容師によって作り方が違う理由が見えてきます。