人間には、良い出来事より悪い出来事に強く反応し、記憶や判断に影響を受けやすい傾向があります。
心理学では、これを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。
何人もの人に褒められても、たった一人から言われた嫌な言葉がいつまでも気になることがあります。
悪い経験を意識することは、失敗を繰り返さないためにも役立ちます。
美容室でも、この傾向を感じます。
【良かった髪型は、案外覚えていない】
ヘアスタイルの相談では、過去に気に入らなかった髪型について具体的に説明されることがあります。
「段を入れられて広がった」
「すかれすぎて毛先が薄くなった」
「短く切られてまとまらなくなった」
一方、気に入っていた髪型については、「なんとなくよかった」「扱いやすかった」と漠然とした説明になることも少なくありません。
成功したヘアスタイルは、日常に馴染み、意識されなくなるのかもしれません。
【失敗の記憶が、次の注文を決める】
お客様が過去の失敗を繰り返さないことを優先して、次の髪型を決める場合があります。
段を入れて広がったから、段を入れたくない。
すかれすぎたから、毛量を減らしたくない。
こうした希望には理由があります。
ただし、お客様が失敗の原因だと考えていることが、実際の原因と一致しているとは限りません。
段を入れたことではなく、入れ方が問題だったのかもしれません。
毛量調整そのものではなく、減らす位置や量が適切でなかったのかもしれません。
一度の失敗から、技術そのものを避けるようになることもあります。
【美容師は注文の背景も理解する必要がある】
お客様の希望を聞くことは大切ですが、そのまま実行すればよいとは限りません。
なぜ段を入れたくないのか。
なぜ毛量を減らしたくないのか。
そこにどんな経験があったのか。
背景を理解して初めて、適切な提案ができることもあります。
嫌だったという経験を否定する必要はありません。ただ、原因については美容師として別の見方ができる場合があります。
過去の失敗を繰り返さないことは大切です。
しかし、原因を誤解したままでは、本来似合う髪型や必要な技術まで避けてしまうかもしれません。
美容師のカウンセリングには、希望だけでなく、その背景にある先入観まで見極める力が必要なのだと思います。



