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カット技術

髪をすいてくれない?毛量調整が必要な理由

「髪をもっと軽くしてほしいのに、なかなかすいてもらえない」

最近、そんなお客様の声をよく耳にします。当店でも初めてご来店された方から「こんなに軽くしてもらえたのは久しぶり」と言われることが少なくありません。

近年は、髪をすきすぎる失敗が問題視され、毛量調整に慎重な美容師が増えたように感じます。確かに、むやみに減らすと毛先が薄くなり、かえって広がることもあります。しかし、毛量調整を避けることが正解なのでしょうか。

【前後で髪の重なる量は違う】

掲載した図は、髪の重なりを数字で示した模式図です。数値は実測値ではなく、相対的な毛量を表しています。

図1では前側が20、後ろ側が50。毛量が2倍の人を想定した図2では、前側40、後ろ側100です。前後の差は30から60に広がります。毛量が多いほど、前後に生じる重さの差も大きくなるということです。

なぜ、この差が生まれるのでしょうか。

前側は基本的に耳より上に生えている髪が中心なのに対し、後ろ側には襟足まで広く髪が生えています。そこから伸びた髪が下方へ重なるため、後ろ側には厚みが集まりやすいのです。同じ長さに切っても、前後の毛量は均一にはなりません。

【生え際の形も個人によって違う】

さらに、頭の丸みや後頭部の突出、髪の密度、生える角度、毛流れも重なり方を変えます。特にもみあげや襟足は形状に個人差があり、毛量の多い人では生えている範囲が幅広く、下方まで伸びていることもあります。

こうした局所的な偏りも無視できませんが、ヘアスタイルのシルエットや収まりを考えるうえで、まず重要なのは前後の大きな毛量差です。

【毛量調整は、必要な髪を残す技術】

毛量調整は、全体を均等にすくことではありません。重さが必要な部分は残し、余分に重なる部分を適切に減らして、バランスを整える技術です。

もちろん、カットの構成で対応できる場合もあります。ただ、毛量調整そのものを否定する考え方には疑問を感じます。髪の重なり方の不均一さを十分に考慮していないように思えるからです。

上手な毛量調整ほど、すいたことが目立ちません。自然に収まり、扱いやすい。その仕上がりを支えるのは、どこを減らし、どこを残すかという判断なのです。

上手い毛量調整は、存在を消す

毛量調整という技術は、少し不思議です。

上手くいった時ほど、「毛量調整をしてもらった」という印象が残りません。

乾かしやすい。
広がりにくい。
毛先が自然に動く。
重さはないのに、薄く見えない。

そんな状態になっていても、お客様からすると「今回の髪型は扱いやすい」で終わることが多いと思います。

つまり、上手い毛量調整は自分の存在を消します。
逆に、下手な毛量調整は強烈に存在を主張します。

スカスカになった。
毛先が暴れる。
短い毛が立つ。
まとまらない。
伸びるまで直しにくい。

こうなると、原因として「梳かれすぎた」という記憶が強く残ります。

そのため最近は、「梳かない方がいい」「セニングは危険」という話もよく見かけます。

もちろん、やり過ぎれば問題になります。

でも本来、毛量調整は単純に量を減らす技術ではありません。

残すところ、減らすところ、触らないところを見極めながら、形を壊さず扱いやすくする仕事です。

特に中高年の髪では、全体の毛量は減っていても、部分的には膨らむ、癖が強くなる、毛先だけ重く感じる、といった複雑な状態が起こります。

だからこそ、全部を残すことが正解でも、全部を減らすことが正解でもありません。

必要なのは「梳くか、梳かないか」ではなく、どこを、どれだけ、なぜ触るのかを判断することです。

良い技術ほど、仕上がった後には技術の跡が見えない。

毛量調整は、その代表なのかもしれません。

中高年の髪は、マニュアルでは解決できない

今の美容師は、昔に比べて本当に技術を学びやすくなりました。

カットでもカラーでも縮毛矯正でも、YouTube等を見れば上手な人の技術を何度でも確認できます。講習やマニュアルも充実し、昔なら何年もかけて覚えたことを、短い時間で知ることができます。

これは間違いなく良いことです。

ただ、学びやすくなったことで、逆に身につきにくくなった能力もあるように思います。

それは、目の前のお客様を見て、自分で答えを出す力です。

昔は今ほど親切な教材がありませんでした。先輩の仕事を見て真似する。聞いても「見れば分かるだろ」で終わる。教わった通りにやっても、実際のお客様ではうまくいかない。

だから結局、自分で考えるしかない。

髪質、毛流れ、骨格、ダメージ、普段の手入れ、本人の希望。いろいろな条件を見ながら、その場で判断する。

その過程を突破できず、スタイリストになる前に辞める美容師も少なくありませんでした。今は教育が整い、そういう話はずいぶん減りました。これは良い変化です。

ただ昔は、良くも悪くも「自分で考えて突破できる人」が残りやすい環境でもありました。

最近は「○○特化美容師」という形も増えました。一つの技術を深く習得し、短期間で強みを作るには合理的です。

ただ、中高年の髪は少し事情が違います。

髪は細くなり、部分的に量が減る一方で、癖や膨らみが強くなることもある。白髪、ダメージ、ボリューム、扱いやすさまで同時に考える必要があります。

同じ「まとまらない」という悩みでも、切るのか、残すのか、癖を伸ばすのか、活かすのかで答えは変わります。

そこで必要になるのは、得意技を当てはめる力だけではありません。

カット、カラー、パーマ、縮毛矯正、毛量調整など、幅広い引き出しがあるからこそ、「今回はこれをやる」「これはやらない」「別の技術で補う」という発想が生まれます。

一つの技術を深く知ることと、複数の技術を横断して考えることは別の能力です。

中高年特化美容師に必要なのは、何か一つへの特化ではなく、幅広い技術と経験を使って、その人ごとの答えを作る力です。

つまり、中高年特化とは、技術の特化というより「総合力と判断力への特化」なのだと思っています。

同じ髪型なのに、美容師で作り方が違う理由

同じように見えるヘアスタイルでも、美容師によってカットや施術の考え方がまったく違うことがあります。

ある美容師が勧めることを、別の美容師は「避けた方がいい」と言うことさえあります。

どちらかが間違っているとは限りません。違うのは、完成した髪型だけでなく、そこへ至る「仕上げ方」まで含めて設計しているからです。

例えば、毎日アイロンでボリュームを抑えて仕上げるのか、ドライヤーで根元を立ち上げて仕上げるのか。同じような髪型に見えても、カットの作り方は変わります。

若い世代ではアイロンを日常的に使う方も多い一方、40代、50代、60代には、ブラシとドライヤーや、いわゆる「くるくるドライヤー」に代表されるカールドライヤーを長年使い慣れている方も少なくありません。

髪が細くなり、根元のボリュームが出にくくなってくる年代では、アイロンで整えることを前提にすると、欲しい場所の立ち上がりまで失ってしまうことがあります。

艶の考え方も同じです。

ヘアオイルやスタイリング剤でしっとりした艶を作るのか、それとも髪の表面を整え、光を白く反射する髪本来の艶を出すのか。

Suzeでは中高年の髪には、できるだけ後者を目指します。ヘアオイルを使わない、スタイリング剤に頼らない仕上がりを希望する方にも向いた考え方です。

もちろんアイロンやオイルを否定しているわけではありません。ただし、それらを使わないと成立しない髪型を最初から目指すのではなく、まずはドライヤーとスケルトンブラシ程度で形になるスタイルを第一段階とします。

それだけでは髪質的に難しければ、酸熱トリートメントでうねりや広がりを整える、パーマで立ち上がりや動きを補う、と段階的に方法を探します。

「アイロンを使わない髪型にしたい」「ヘアオイルやスタイリング剤に頼りたくない」。

そんな希望も、ヘアスタイルを作るうえでは大切な条件のひとつです。

美容室を出た瞬間だけではなく、翌日から自分でどう仕上げるのか。
そこまで考えると、同じように見える髪型でも、美容師によって作り方が違う理由が見えてきます。

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